注)以下の文章を書いた伊藤晃が、10月31日に、JAふかや執行部に渡した「要望書」については、末尾に掲載しました。執行部の方の反応は、一言で言えば、「個人的には理解できるが、JAとしては動くつもりはない」というものでした。そのような場を設定していただいた、地区の理事の方のお骨折りには、大変感謝しています。(WEB担当)
◆農協の不思議
TPPが農家を直撃する経済的問題とするなら、放射能汚染は農地を破壊する物理的問題です。どちらも、農家が安心して生産に励む基盤を崩すものです。国民の生活に及ぶ影響は想像も及びません。生産者のみならず、消費者も同様に大切なものを失うことになると思います。
TPPに反対することが出来るのに、なぜ原発に反対することが出来ないのでしょうか? 私にはわかりません。
命と緑を守ると言いながら、TPP反対だけを言うならば、推進派が言う様に、「農家は小さな既得権益を守ろうとする」「反対の声を盛大に上げるのも、政府から出来るだけ金を引き出そうという魂胆なのだ」と、いつものように農家の思いは矮小化され、看過されます。
農家は小さな既得権益を守るために、農業を、非効率な細かく区切られた農地を、守ろうとしているのでしょうか?
この国の農家のほとんどは、儲ける為だけに農業をしているのではありません。誰もがお金は必要ですが、命をつなぐ糧を作ることを誇りとし、たとえ収入は少なくとも大切なものを守り伝えることを責務と感じているのです。
都市は、農村にとって、子であり、孫であります。
都市は、一人で育ったわけではなく、農村に育まれ成長してきたのです。農業はいつも天災と向き合い、粘り強く乗り越えてきました。
しかし人災は、大きな痛手、予想外の裏切りです。原発震災に続き、TPPという途方もない返礼を、子や孫からつきつけられることになるとは、思いもよらぬことと思います。
多くの農家は、アメリカ式、オーストラリア式の農業をしたい訳ではありません。自分の耕作地の地形や風土の中で、長い時間かけて先達が切り拓き、育んできた技を守り伝えて行きたいのです。高付加価値を持った、輸出に耐えられる食べ物を作ることよりも、当たり前の食物を作り、提供し、喜びをもって食べられることが、望みでもあります。
今多くの農家は「あなた方は、もういらない」と言われたように思っています。「開国によって、この国の食べ物はよその国の人が安く作ってくれる」という、傲慢な世界認識と国策によって、この国が農村漁村から徐々に息絶えていくのがわかります。
しかし、徐々に、とは、希望的な観測かもしれません。
◆この国の不思議
ところで、この国での大局的視点といえば、経済が拡大するか否か、目先の儲けを得るか否か、といった有り様で、せいぜい半年後の「長期的」視野しか持ち得ません。
激変する気象の中で農業を営むには、気候風土に調和しようとすることが、肝心です。欲張っても、土や風に寄り添わねば何ものも生まれず、育つこともありません。
お金の力で、世界を調和させ、この国の調和を保つことなど、できる筈もありません。テクノロジーも同様です。
過去消え去った文明はみな、発展の果てに自分の足元を崩し滅亡していったようです。
今日の繁栄を礼賛しても、嫌悪しても、私たちは己の足元を汚し傷つけています。崩れ落ちるのが何時かは誰にも解りませんが、「私達だけは違う」とおごり、危機を侮る人ほど、足元を気遣うことなく破壊します。
文明はいつもその外側からの収奪によって肥え太ります。「テクノロジー」は、外側から収奪する為の道具のことを、体よく言い換えたものです。
外側に何もなくなったとき、果てまで文明が行き渡った時、文明は、再び、中心部が外縁部から収奪するようになります。足元を切り崩すとは、このことに外なりません。
原子力発電所、TPP、1%と99%、の問題は、みんな同じような構図と見えます。
滅んでも、滅んでも、再生し、繰り返される過ちは、どこにあるのでしょう。再生を助け、支える知恵と、恵みは、どこから生まれるのでしょう。
滅びながら考えます。再生を信じながら考えましょう。
冒頭の(注)にあります、JAふかやへの要請書は以下の通りです。
JAふかや執行部殿
福島原発事故による災禍の全容が、未だ明らかにされず、放射性物質の放出も、収束の見通しが立っていないにもかかわらず、北海道の泊原発の営業運転が再開し、他の原発の再稼動も取りざたされています。
私達は、福島県、群馬県のJA組合員の、原発に対する確固たる想いを受け止め、同志として連なるように、東日本各県のJA、全国のJAが、脱原発の道を続かれんことを願います。
また、組合員一人一人の声が、国政に反映されるよう、原発に関する国民投票の実施を請求する運動の中核となり、これを推進されることを切に願います。
JAは、この国の食を支える要として、影響力とそれに見合う責任とを有しています。今は、とりわけ、放射能を被災した農家の立場に立った行動が望まれています。
東日本の多くの農家は、数千から数万ベクレル/㎡の放射能汚染を受けた耕地に、朝から晩まで、貼りつくようにして毎日を送っています。農家の平均的年齢が高齢化し、若い後継者が育っていかなければいけない時に、何という過ちが犯されたことでしょう。
また、内部被曝の問題も、固唾をのんで、見守られています。農家は、否応なく土ぼこりを吸い込む職業です。食べることに加え、吸入によって、より危険にさらされる人々が、何の防護装備も持たぬまま、仕事と日々向き合っています。
JAは、この国の全ての人々の生活基盤、生命維持の根本を支えています。この誇りにかけ、進んで発言し、脱原発を訴えていかなければならないと思います。
TPPの阻止運動と同様に、JAがその立場を広く訴え、農業存立の成否をかけて、幅広く多くの人々と絆を結ぶことが不可欠です。農業の孤立、弱体化を、共にはねのけていければと願っています。
2011年10月31日
JA組合員有志一同
JAにつながる消費者有志一同
(文責 伊藤 晃)