暑い、寒い、痛いつらいうれしい。あの人苦手、あの人嫌い、あの人のこと気になる。あの人は好き。
蛙が鳴いている。ミミズが道路で干からびている。汗臭い。咽喉が渇いた。湿気がまとわりつく。
お金が無い。しんどい、身体を起こすことができない。何も出来ない。先生に怒られた、今日の洋服嫌だ、恥ずかしい。猫がかけていった。
明日の課題が終わらない。勉強する気がおきない。進路が決まらない。就職できるかな。坂を上って学校まで行かなくちゃ。
あの人かわいい、きれい。うらやましい、妬ましい。あれがほしい、これもほしい。
少し言い過ぎたかな、何か言えばよかったかな、傷つけたかな、わたしのこと嫌いかな、どうでもいいかな、わたしのこと好き、かな。
また朝が来る、また夜が来る。もう、からだが、うごかせない、もう、なんにも、かんがえたくない。明日が今日になってしまう。それでもごはんはおいしかった。あの人は優しかった。
舞台での私と、普段の生活のなかの私。毎日何かに追われている。あれやらなきゃ、これやらなきゃ。
人と会う度、複雑な感情が毎回わき上がり、疲弊する。どちらがほんとうで、どちらが現実なのか。
舞台でいくら良いことしていてもそれは現実とかけ離れてはいないか?空想の、妄想の、頭の中だけの異世界か?
いつだって、現実は私が意識して見ているもの、聞いているもの、感じたことであり、たくさんのフィルターを通ってきたものを現実として捉えている。
世界?宇宙?ここからあそこまでは本当に25キロ?身長は本当に157.6センチ?意識と無意識。ゆめとうつつ。
まるごと。いつだってそうでありたい。舞台は生きている。毎日私は変わっていく。見えるものも変わっていく。感じることも変わっていく。新しい物を取り込む。いらないものが排出される。細胞が毎日入れ替わる。流れのなかの一時的な淀みに生きている。身体も、心も。
私が毎日変わっていくから、皆が毎日変わっていくから、世界も毎日変わるから、舞台もどんどん変わっていく。
ひとつ、小さくて暖かなものが胸にあって、ポッと灯っている。たまねぎの芯のように、むいて、むいていくと何にも無いわけじゃなくて、掻き分けていくと、耳をすませると、それはそこで光っている。忘れられてしまうもの。いつも置いてけぼりにしてごめんね。
大きさはいつも違うけれど、舞台に立つときも、自転車をこぐときも、転んでしまったときも、悲しくて泣いているときも、いつでも、持っていたい。
身体はいつもここにある。まるごと愛して、愛せなくても、許して、一緒に生きていきたいと思う。
公演をするたび、誰かを傷つけているかもしれない。不快な思いをさせているかもしれない。本当に今公演をすることは正しいのか、最善なのか。有効なのか。分からない。
私たちが公演をするたび、周りの人から言葉や思いが返ってくる。お客さんからもらったアンケートを読むと、そのひとつひとつに、命を感じられる。
作用して、作用される、影響を与え合っている。
生きるって、こういうことか。
4県ツアーは今度の秋田公演で終わります。
けれど毎日が続いていくように、メンバーも私も変わりながら、あらゆるものと、あらゆる人とつながっている。
これからも、よろしくお願いします。
伊藤照手