中央アジアのカトゥマンドゥに、シャマン術国際協会のコミュニティが生まれた。ネパール・コミュニティは今のところ、公立学校のなかにある。
この学校は、学校体育指導をしている武術師範のおすみつきで、「シャマン術みっつの基本」をカリキュラムに取り込んだ。そうして生徒みんなで、毎日、みっつの心身術を続けて愉しんでいる。
みっつの心身術は、生徒たちからウケている。年長の子たちがみんな率先してやっている。
この学校の生徒はみんな、親に捨てられた、あるいは親を亡くした、孤児である。年齢層は、日本でいうと、小学生から、大学生まで、幅広い。
お互いに仲良く和める。
感覚がゆたかになる。
いのちを大切にしたくなる。
シンプルでからだにいい。
子供の頃から、こんなに体にいいことをできるなんて、すばらしい。
まるで昔の日本の桃源郷みたいだ。
いや、桃源郷なんて、とんでもない。この国には身分制がある。日本人そっくりの顔をしたチベット人は、最低の身分として、インド=ヨーロッパ語族の支配者たちに差別を受けている。どんなに情熱があって賢くても、低い身分の人は、社会の要職につけない。どんなに才能ゆたかでも、女性はなかなか、社会を変えていく地位につけない。
働いても、働いても、来年の見通しがつかない。貯金も乏しい。憧れの日本にも、一生、行けるかどうかわからない。貧しい、厳しい、社会の現実がある。
だからこそ僕は、この地で、シャマン術を復興したくてたまらなくなった。彼らに、国際友の会のメンバーになってもらいたくなった。
彼らは、今なお、学校をあげて、毎日、毎日、毎日、僕の伝えた、日本のみっつの伝統の心身術を続けている。そうして毎日、毎日、毎日、何と、日本の方へ向かい、「センセイ、アリガトウゴザイマス!」と日本語で声をそろえている。
センセイというのは、僕の祖母・両親や、野口晴哉さんや、大野一雄先生など、僕たちの先生のことだ。
僕はネパールの孤児院で皆から「グル」「センセイ」と呼ばれてしまっていたけれど、ここは何にでも聖なることを見出そうとする、こころのゆたかな文化圏なのだった。お師匠さんたちのおかげで敬われてしまうのは仕方ないかなと思った。僕の先生たちが、国外の子供たちからも「先生」として敬われることを、素直に受け容れられた。
貧しい国のスラムなんかで療術指導をしていると、物めずらしがられるばかりでなく、「旅の呪術師=最低身分の者」とみられて軽くあしらわれることがある。来るひと、来るひと、何十人と整体して、アドヴァイスして、体力ゼロのぼろぼろになって、なおかつ軽くあしらわれて、埃だらけの暑熱のまちをふらふら歩いていると、いっそのこと、こころがすがすがしい。
生き神さまの賓客になったり、えらいグルになったり、たかが呪術師になったり、踊りながら歩く不思議なジャポネになったり、こういう落差というかダイナミズムが、旅先での楽しい生きがいとなる。
…………………………………………………………………………………………
〈シャマン術国際協会〉は、国を超えた不思議な友の会だ。
なんの義務もなく、いつ抜けてもいい。
それなのに、今のところ、だんだんメンバーの数が増え、盛んになっていく。
ささやかながら、ずっと世界中の人たちにとって足りなかったことを、根本からおぎなうような活動をしているのだろう。
大量消費文化を普及させて、財力と権力を抱え込んだ方々よ、あんたらはもう、守りに入ってしまって先がない。この地球に住む人びとが、今後たよりとしていくのは、金やら力ではないのじゃ。得られない愛情の代用に、あなたたちが用いてきた、正体のあやふやな金権ではないのじゃ。
今後これから、人びとが気づき、大切に意を注ぎはじめるのは、いのちを大切に感じて、いのちを味わう、心身だ。
金権之力・信之助さんたちよ。
我われ、命之恵・愉之助たちは、闘わずして、いずれあんたらに勝つ。
金権之力・信之助さんたちよ。
まだだいぶ時間かかるかもしれんけど、いずれあなたたちは滅びます。いのちを大切にせんあんたらが、末々勝ち残っていけるわけがない。
あんたらの、体にわるい、こころにわるい、みっともないコネカネのせいで、あほな話や、あんたら自身がもう、からだもこころも、ぼろぼろやんか。
なあ? せやろ?
ここらへんでもう、要らんリキ入れんと、心地よくパラダイス温泉しようや。
いちど、こっちの魅力知ってしもたら、あんたらもう、生き心地よくなってもうて、気づまりなタクラミ、やめるしかなくなります。
大量生産。大量支配。競争。闘い。陰謀。ほかに愉しみを知らんから、そうなってしまうのかの。薬と名打って毒売ったり、そういうつまらんこと全部、そろそろ、やめたくなってきたじゃろうに。悪循環じゃ。いのちの流れが詰まってしまって、頭のなかで澱んだ悪循環が起こってしまっているのじゃ。
生き心地のよい心身術を身につけたら、そういう悪循環からさっさと抜けだしたくなって、やがて抜けだします。
そのくらいの魅力と効目があるとわかっているから、僕はこんなに本気になって、みっつの心身術を紹介してまわっているのです。
大量消費文化を裏から盛大にコントロールしている、この世でいちばん孤独で不安で悲惨な、何かの奴隷みたいな人たちに知ってもらいたい。
いのちを大切にし、いのちを味わう、日本の伝統。
古来人びとが大切に守ってきた、この伝統が、いずれあなた方を淘汰して、世界に広がっていくだろう。
あとはプロセスを踏まえて行くだけだ。
〈褐色あぶく飲料〉〈挽肉パン〉〈培養肉芋空揚〉というみっつのワールド・スタンダードを淘汰して、次に世界の主流となるのは何か。
食品添加物をモリモリにした、人工食品。いのちによくない、人工食品。生産している当事者たちだって、すでにだいぶ気が重いことだろう。
企業戦略によって、どれほど多くの人たちが、悔しい思いをしてきたことか。
ジャンク・フード企業は、宣伝力を駆使して、まず子供たちを味方につけ、子供たちの親を味方につけようとしてきた。チェーン店フード、ジャンク・フードは、すでに、たくさんの人の、幼少期の美しい想い出と結びついてしまっている。こうした店で楽しくアルバイトしてきた人たちも多い。
そうした人たちのこころを想うと、「ジャンク・フード=ゴミ食品」などと呼んでこれを嫌う人たちも、気が重くなることだろう。こうして悪循環が起こる。大量消費産業は、こころある人びとを、やりきれない矛盾・葛藤のなかに巻き込んでしまう。
何のためか。
稼ぐためだ。
稼いでどうするのか。
大規模にいのちを損ないつつ稼いでどうするのか。
「いちばんみっともなくて、あほらしいのは、ジャンク・フードを口にすることだ」
今、世界中の若い世代のあいだで、そんな風潮が広がりつつある。
各地で、若い人たちが、伝統の食を愉しむようになり、伝統の食を復興している。
〈☠ いのちを損なうものを量産し、大量に処理してもらって稼ぐ ☠〉
これからの人びとは、そんな有り方と、少しずつ、逆の方向へと再自然化していくことになる。
みっつの心身術が、次のみっつの、ワールド・スタンダードになるかもしれない。
世のなかの、いのちの糧、たましいの糧だ。
〈ちのみち〉〈たなすえ〉〈おまじない〉などとも呼ばれる、日本の伝統の心身術。
世界各地のシャマンがかつて共有していた、生き心地のよい心身術。
やがて、これをたしなむことが、人びとのひそかな憧れとなり、やがては新しいワールド・スタンダードとなってゆくような気がする。
こんなことを本気でイメージしているなんて、若々しい思春期の真っ盛りみたいだ。
いろいろ辛い体験も積んできたであろうに、この青さは一体なんだろう。
発足から9か月を経て。
7月には、仙台で、シャマン術国際協会(Shaman-Art International Association)の日本コミュニティが発足した。
日本コミュニティ初代リーダー(コミュニティ内外の連絡係)は、東日本の別々の場所から集まった、仙台コンポンテラリーアート部の4人、それぞれに志をもつ、20代前半の若い男女4人だ。千葉瑠依子。澤野正樹。伊藤照手。長谷川あい。
すでに名古屋と京都にもメンバーがいる。
シャマン術は、いのちの復興術だ。
空気を吸えなかったら死ぬ。
ご飯を食べられなかったら死ぬ。
世のなかで命を味わっていけなかったら心身が弱ってしまう。
僕はこれからも、地道に、いのちの復興術を普及させていきたい。
一対一のやり方を素に。相手と、対等な、いのちで。
いのちにとって必要なことをする。
誰にとっても末広がりな、喜ばしいことをする。
遣り方は、シンプルで、やさしいほうがいい。
自分たちの分ち合っている術を、茶化して笑ってしまえるくらいでちょうどいい。
〈ちのみち〉〈たなすえ〉〈おまじない〉、いずれも、ごく日常の暮らしと結びついている。誰にとっても切実で、必要なことで、すぐに身につけられる。
笑いながらできるところがいい。どれも、大笑いしながらでも、泣きながらでも、出来るところがいい。いくらでも笑いもの、笑いごとに出来るような、気ままで充ちたりた感じがあるのがいい。
ひっそり一人でも出来るし、何万人かで一緒になっても、バラバラに揃って出来るところがいい。どこまでもキリがなく進化させ、あらゆる方面へ応用することができる。続けるほどに深さも果てしなく奥ゆかしいところがいい。
いつでも、どこでも、すぐに、楽に、できるところがいい。どんなに心が深まっているときでも、どんなに苦しいときでも、そしてどんなに喜ばしいときでも、やっぱりここに気が向くあたりがいい。
いのちを復興するのに、いいダンスを広めていきたい。
〈ちのみち〉〈たなすえ〉〈おまじない〉の重なり合った、いいダンスをする。
すこし試してみるだけでわかる。
三ヶ月、これを続けるだけで、いのちはびっくりするほどに復興する。
飯田茂実
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。